2011年11月14日月曜日

EUのトリレンマ?

今週のThe Economistの特集はヨーロッパの未来についてだが、私がこの問題について考えるさいには、いつもハーバード大学の経済学者であるロドリック(Dani Rodrik)が2007年に示したトリレンマが思い浮かぶ。彼の意見は明快で、以下の図のとおり。

ロドリックによると、上の3つの四角にある「(国境を越えた深いレベルの)経済統合」と「主権国家の自由な主権行使」と「民主主義制度」を同時に満たすことはできない。例えば経済統合を貫徹しようとすると、主権国家が民主主義制度を通じて課す各国固有の規制と、経済の論理との間で不整合がおこる。

この場合取りうる選択肢は上で示されているように以下の3つ。
  1. 経済統合+主権国家/経済の論理による国家統治:経済統合の深化を推進するため、そのために不都合となる規制等を改変・撤廃する方向で主権国家内の制度の再編がおこるが(経済の論理が民主主義に優先される)
  2. 経済統合+民主主義/世界連邦:これは主権国家の枠をとりはらって民主主義+経済統合をすすめる方向でいわゆる「世界連邦?」。ただし、ロドリック自身もこの方向は現実的ではないとしている
  3. 主権国家+民主主義/ブレトンウッズ的なシステム:第二次世界大戦以降戦後の1970年代まで先進国が採用していたブレトン・ウッズシステムのもとでは資本の移動に代表される経済面での統合が極めて制限されていたため主権国家と民主主義の両立が可能だった
国境を越えて国家間の経済統合を進める場合、(バラ色の未来だけではなく)諦めなくてはならない可能性のある事項を考えるうえで面白い指摘。

EUのそもそもの母体は欧州石炭鉄鋼共同体を基礎とした経済統合を推進する組織がベースだったが、主権国家の権力をどこまで制限するのかを曖昧にしたまま、この母体を拡大しようとしたため、構成する主権国家の思惑が異なった場合の意思決定/調整手段に四苦八苦している、というのが今のところか?

そのうえで現状EUは、2.の主権国家の権利を制限する形でのユーロ圏の経済統合+民主主義の深化か、3.の主権国家+民主主義を基礎にした経済統合の抑制/解体に進もうとしているのかを選択する岐路にたっているのかな?