2011年11月22日火曜日

世界における若者の失業問題について①

現在世界的な規模で起こっている騒乱やデモの理由の一つとして、若年世代の高い失業率が挙げられている。例えば:
  • 国際労働機関(ILO)はアラブ諸国で起こった反乱の主要な原因として同地域でのこの指標の高さを挙げている
  • 複数の新聞はこの夏にロンドンでおこった暴動の原因の1つに同様にこの指標の高さを挙げている
  • アメリカのOccupy Wall Streetデモの要因としても、格差の問題と関連してこの問題が挙げられている
日本でも若年世代の失業率は上昇傾向にあるといわれる。またThe Economistも過去にこの問題についての特集を組んでいる。

本日から複数回のポストでこの問題に関する数字を追っていく。

これからのポストで主として参照するのは、ILO(国際労働機関)のGlobal Employment Trends for YouthのAugust 2010(ILO(2010))及びそれのアップデート版であるOctober 2011(ILO(2011))の2つのレポートである。

また対象とするのはILOが若年世代として定義する15-24歳の世代の失業問題である。加えて世界の動向を見るため日本の若年失業問題に焦点をあてて扱うことはしない。

なお、よく主張されることだが、国ごとに労働統計の定義やカバーする範囲が時には大幅に異なるため、統計数字だけをおっていても、世界の実相を把握できるとは限らない。ただ他にこの問題について追える資料が見当たらないため、追える範囲の数字だけを見ていくことにする

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【世界の若者人口・労働力人口の推移】
ポイント1. 1991年から2009年にかけて世界の若者人口は約20%増加しているが、それに見合った割合で労働力人口や就業者数は増えなかった。
         出所:ILO(2010)より筆者作成
  • 世界の若年世代(15-24歳)の総人口は1991年から2009年の期間で約20%増加している
  • 同期間に労働力人口は約4%、それ以外(労働力人口以外)の人口は約46%増加している
  • 4%増加した労働力人口の内部を見ると就労者数はこの期間に約2%の増加、失業者数は約15%増加している
  • 従って、世界人口の増加(20%)に見合うような形で就労者人口の増加(1.8%)はおきず、人口が増加した分は主に労働力人口以外の増加(45.4%)に回ったことを示す。
上の労働力人口以外(非労働力人口ともいう)については定義として「就業者と失業者」以外をあらわすため、その増加の要因は様々なものとなる。「仕事をしたいと思っているが景気が悪く職探しをあきらめたもの」や「仕事をさがしているが政府の統計上そう分類されないもの」や「家事をするもの」もここに分類される。従って景気後退期には非労働力人口が増加する傾向がある*。
*日本での定義についてはここを参照

以下は参考までに2010年と2015年(予測)における若者総人口の地域別内訳。
出所 ILO(2010)

【若年世代の就業者人口と就業者割合】
ポイント2. 上記のように若者人口の増加に見合うだけの就労者数の増加がおきなかったため、同期間において就労者数が総人口に占める割合(就業者率)は一環して低下している。

ILO(2010)
上の棒は若者総人口の推移、折れ線は就業者率を示す。

なお、ILOはレポートの中でこの数値の低下について、低下の原因が:
  • 若年世代の高等教育への進学率の上昇などによるもの
  • アフリカ地区に見られるように生活のために教育などをあきらめて就労する人が減ったことによるもの
等の場合はポジティブに考えられるべきであるとする一方、仕事をしたくても仕事がない若年世代の増加が原因の場合は好ましくない、としている(当たり前だが)。


【若年世代失業率の推移】
ポイント3. 世界全体で見た場合、若年世代の失業率は1992年からほぼ上昇しており、2005-2007にかけて急減したが、2008年から上昇し、2005年以前の水準に戻っている。
折れ線は若年世代失業率、棒グラフは若年世代の失業人口を示す。

上からわかるように世界全体で見た場合、若年世代の失業率は1990年代と2000年代の前半を通じて上昇してきた。2005-2007年に失業率は一時的に減少したが、金融危機後の2008年以降は再度失業率が上昇している。なお上の2010年、2011年の数字はレポート発表時点(2010年8月)での予想数値である。