2011年10月7日金曜日

サムスンvs日本メーカー⑩設備投資

なんと今週のThe Economist(October 1-7, 2011)は表紙(!)にサムスンをおきBriefingページでサムスンの将来の投資分野を扱った記事をのせている。


この記事について以下に重要と思われる点を抜き出す。
  • サムスングループはこれからの10年間で20億ドル(日本円で約1兆5千320億円[1ドル76円で換算])を以下の新分野に投資する。
    • ソーラーパネル (100% Samsung SDI):5.1 billion
    • LEDライト (50% Samsung Electronics):7.3 billion
    • 電機自動車用バッテリー (50% Samsung SDI、50% Bosch): 4.6billion
    • バイオ医薬品(40% Samsung Electronics、40% Samsung Everland、10% Samsung C&T、10% Quintiles): 1.8billion
    • 医療機器 (100% Samsung Electronics): 1.0billion
  • 1969年にトランジスタラジオの製作を開始したサムスン電子は、(現在テレビ・携帯その他)コンシューマーエレクトロニクスの分野で世界のリーディングカンパニーになっている。
  • しかしながらサムスン電子はコンシューマーエレクトロニクス分野以外の分野にも収益源をみいだすことを意図している-コンシューマーエレクトロニクスの分野は中国等のライバルの台頭、価格の継続的な低下、マージンの薄さ、消費者の嗜好の変化の早さ、等により長期的な成長が難しい分野である。
  • 2020年までに李会長はサムスン電子を時価総額で400億ドル(日本円で約30.65兆[1ドル76円])の会社にしたいと望んでいる。
  • 新たに挙げられた分野はサムスン電子の既存の分野とは全く異なるものに見えるかもしれないが、多額の設備投資と製造を短期間に大規模に拡大する能力が必要であるという点で共通点がある。
  • サムスンの成功は現在の規模は小さいが、急成長をしている分野(理想的には大規模な設備投資が必要となる分野)をいち早く察知する能力からきている。
  • 成長分野(過去の例として液晶パネル・フラッシュメモリー等)を見定めるとサムスンは用心深くその分野の技術に慣れつつ、参入するタイミングをうかがう。そして機を見てその分野に進出すると同時に多額の設備投資を行い、製造をできる限り早く拡大する(同時にサムスンは同分野の他の会社に部品も提供する)。
  • 過去においてほかの会社もそれらの分野に注目はしたが、一度に何十億ドル(注:日本円で数千億円)もの投資をおこなうことはできなかったし、しようともしなかった。サムスンにそれが可能だった理由のうちの大部分は李会長への個人崇拝に起因している。
  • サムスンの新しい投資分野はたしかに有望だが、同時に大きなリスクも伴う(GE、パナソニック、フィリップス等の既存のライバルとの競争、新興諸国企業との新たな競争、あるいは買収にともなう文化的摩擦等)。
  • だが、サムスンの直面する最も大きなチャレンジは現69歳の李会長から43歳の息子(Jay Y.Lee)への事業の承継だろう
  • 日本で教育をうけハーバードビジネススクールを卒業したLee氏(サムスンの創業者及び現在の李会長も日本で教育を受けている)を最初に待ち受けるテストはサムスングループの企業間の不透明で入り組んだ持合い関係と利益相反関係の改善である。
  • (現在の)李会長はサムスン電子が40年という中年期を迎えることによる停滞を恐れている(ソニーが1990年代にそうだった)。
  • またサムスンは不採算分野から撤退することが得意でない。暗黙裡に補助金として提供された資本、外部株主からの弱いプレッシャー、ファミリーによる支配等により、過去にもまずい決断からの撤退が遅れたことがあった(自動車生産分野への進出等)。
  • おそらく(今回の投資に関し)サムスンにとって最も大きな危険となるのは、そのすべてが失敗することではなく、成功しないことが分かっている分野への投資をストップすることができないという事態だ。賭けにでるのに正しい時期を知ることが重要な才能であるように、賭けから身を引くべき時期をしることも重要な才能だ。
すべての分野をサムスン電子(Samsung Electronics)が担当するわけではないが、バイオ医薬品とか医療機器とか現在の業務分野とほとんど関係がなさそうな分野へのシフトを企図しているらしい。


ちなみにサムスン電子と日本メーカーの直近の設備投資の額を比較すると以下の表のようになる。サムスン電子の場合これは(当然ながら)既存の分野への設備投資なので、これに今後10年で上記の20億ドルの新分野への投資のうちのサムスン電子が担当する部分が加わることになる(実際には既存の分野で削るところもあるのだろうが)。