- 1997-1998年のアジア金融危機以降、多くの新興諸国及びコモディティ(原油等)産出国は国内での貯蓄が投資を上回る状態が続いていた。
- これらの国々の国内金融市場は、安全に価値を保全でき(安全性)且つ容易に貨幣に変換できる(流動性)資産を充分な量(つまり国内の貯蓄を吸収するために充分な量)供給することができなかった。
- 結果として、(つみあがった貯蓄の価値を)安全に保存できる資産を求めて、これらの国々から先進国(アメリカ)への資本の逃避がおこった。このような資金の流れは直観(=資金余剰・投資機会不足の先進国から資金不足・投資機会豊富な発展途上国への資金の流れ)に反する流れである。
- それらの資金のほとんどはアメリカの金融市場に流れたが、アメリカの金融市場においてもそれらをすべて吸収するだけの量の安全資産は供給できなかった。
- 結果として、このような大規模な資金の流入は「世界で最もダイナミックな金融市場」にAAA格の債権をつくりだすインセンティブを与え、サブプライムローン等をもとにしてAAA格の債権が(人工的に)つくりだされた。しかしそのような債権はUS Treasuries等と同等にマクロのショックに対して頑健な資産ではなかった(結果として金融危機が発生した)。
実はこのような問題意識を持つのはカバレロだけではない。現FRB議長のベン・バーナンキも最近発表されたディスカッションペーパー(Ben Bernanke, Carol Bertaut, Laurie Pounder DeMarco, and Steven Kamin, February 2011, "International Capital Flows and the Return to Safe Assets in the United States, 2003-2007", International Finance Discussion Paper)では同様の認識を少し違った角度から示している。以下当該ペーパーから要点を抜き出してみる。
- 直近のアメリカの金融危機の要因は複数ある。国内要因を挙げるとローンのアンダーライティングにおける歪み、金融機関におけるリスク管理の杜撰さ、金融規制の範囲やインプリメンテーションにおける問題等。
- これらに加えて外的要因として海外、特に貯蓄過剰国(GSG:日本以外のアジアと中東の国々)からの資金流入は、危機の発生に以下のような役割を果たした*。
- 2000年から2007年まで米国の10年債の利回りを低位に押し下げ続けた(図1参照)。この間公定歩合は1%から5.25%にあがっていた。グリーンスパン(前FRB議長)はこの長期レートの低下を謎(conundrum)と呼んだ。
- MBS(モーゲージ担保証券)の利回りを低い水準に押し下げた。この間、MBSの発行残高は6.4兆ドルから11.1兆ドルまで増えていた。
- 新興諸国における貯蓄過剰(国内貯蓄が国内消費を上回る状態)の原因のいくらかは、1997-8年のアジア金融危機の結果としての投資を抑制し貯蓄を優先させる性向と原油価格等のコモディティ価格の高騰、及びアジア諸国の高い貯蓄率に求められる。
- このように積みあがった資金は国内では供給されない安全資産を求めてアメリカに流入した。
- またこの間貯蓄過剰国以外にヨーロッパからも巨額の資金がアメリカの金融市場に流入した(以上の概要はテーブル1を参照)。
- 結果としてこれらの需要にこたえるためアメリカの金融市場はAAAの商品をつくりだした。
- 貯蓄過剰国からの資金は米国債または米国が(暗黙の)保証をしている機関が発行する債権(Agency Debt等)を購入した(図2参照)。
- また、つくりだされた商品の大部分は(安全資産を求める投資家の期待にこたえるため)AAA格付けをもっていた(図3参照)。
図1 (ディスカッションペーパーのFigure1).
図2 (ディスカッションペーパーのFigure 3)
図3(ディスカッションペーパーのFigure9)