前回は、将来の世界では複数の国債通貨が安全資産(準備金)として併存する到来する可能性が高い、というところで終わったが、今回はそのような世界が実現したさいのシナリオ。
- 単一→複数通貨への移行後に世界の金融システムがどうなるかについてはいくつかのシナリオが考えられる。
- シナリオ1.安定性の向上:現在のEU及び中国の世界GDPに占める割合の上昇に比例する形で国際通貨についても円滑にドルからユーロ・元への置き換えがおこり、結果として安全資産の充分な供給により世界金融システムが安定化する、というシナリオ。このような世界では基軸通貨を発行する各国はその裏付けとなる財政の健全さを相互に競うだろう。これは各国を財政健全化に向かわせるようなよいインセンティブを与える。将来的にこの方向にすすむために、ユーロは加盟相互保証付のユーロ債を発行し、中国は自国の金融システムをよりオープンなものに改革する、ことが望ましい(提言1)。
- シナリオ2.不安定性の向上:上記の安定化シナリオは望ましいがそれ以外のシナリオも考えられる。基軸通貨の多極化は世界を不安定化する要因になりうる。複数の貨幣を背景とするリザーブ(安全)資産が併存する状態は通貨・資産相互間の互換可能性(interchangeable)を必要とするが、このような世界では小さなショックに対し、不意に巨額の資金移動が起こり得る(現在のユーロ)。従って複数の基軸通貨を有する世界は安定期と不安定期を交互に経験する可能性が高い。
なお、提言2は将来の流動性危機に備えるためリーマンショック後に臨時的に各国の中央銀行間で創られた通貨スワップ網を恒久化する、ということらしい(以下ペーパーのFigure5より転載)。
ここまで見て分かる通り著者達の主張の根幹には、米国の経済が世界に占める割合の縮小・中国及びインドを代表とする新興国の経済発展により、ドルの基軸通貨としての地位の弱体化は必然であるという想定がある。
このような認識を示す論者は多くたとえばThe EconomistはArvind Subramanianの本から以下のような以下のようなグラフ(世界の経済大国トップ3の世界経済に占める割合)を紹介している*。
*The Economist, Sep 10th 2011, "The celestial economy"