・・・が、単純に国の債務残高*といっても複数の定義があるようで、発表主体や論者によって定義が少しずつ違う。
*純債務残高をめぐる議論もあるようだが、ここでは総債務残高のみを取り扱う。
あらためて考えるとこれはおかしなことで、一般論として社会科学においては議論の前に議論の対象となる概念の定義は共有するべき、とのルールがあるはずだ。
ネットを見てみたら財務省のページに以下の資料があった。
出所:財務省
・・・上記のように債務残高については財務省自身もいろいろな定義があることを認めている。
以下少し整理するために知人から借りているマクロ経済学の教科書*から債務残高の定義を説明した部分を抜き出してみた。
*以下マクロ経済学(斎藤誠、岩本康志、太田聡一、柴田章久著 有斐閣)P375-6からの抜粋。
- 国債及び借入金並びに政府保証債務残高:財務省がIMFの公表基準に沿って3か月に1回公表するもの。上表の③に政府保証債務をプラスした数字。定期的に発表されるので一番メジャー?
- 総政府債務残高:1から政府保証債務を除いたもの。つまり上の③。OECDの統計集Central Government Debt内の総政府債務(Total government debt)はこの定義で計算される数字。OECDが日本政府の研究などをする場合にはこの数字を使うことが多い?
- 国と地方の長期債務残高:上の2から財政投融資特別会計国債と政府短期証券を除いた「国の長期債務残高」に総務省が発表する「地方財政の借入金残高*」を足し合わせ重複分を消去した数字。地方の債務が入っているので国と地方の合算値をみたいときに利用される。
- 公債等残高:3から交付国債、出資国債等、交付税特別会計以外の特別会計借入金、公営企業債を除いた数字。経済諮問会議ではこの数字が議論された模様。
*地方債残高、公営企業債残高、国の交付税特別会計借入金残高の合計
この定義を用いて上記の財務省の表をつくりなおすと以下のようになる。
債務残高の定義表:以下のすべての数字は政府保証債務を除き平成23年度(2011年)度末の予測値として財務省の上表からとった
この定義を用いて上記の財務省の表をつくりなおすと以下のようになる。
債務残高の定義表:以下のすべての数字は政府保証債務を除き平成23年度(2011年)度末の予測値として財務省の上表からとった
++:平成23年度末の予測値が見当たらなかったので財務省のホームページから平成23年6月末の実績値を採用
実は、上の各定義には、国民経済計算上の「一般政府債務(国・地方・社会保障)」の計算に含まれる「社会保障基金」の債務(財務省上表の右端を参照)が含まれていないため注意が必要のようだ。
また、上記の各定義は内閣府が作成している国民経済計算の一般政府債務や日銀の資金循環表上の政府負債の数字とも定義のずれがあるようなので、どれを参照するのかで議論で使われる政府債務の数字がかわる。
債務問題を論じる論者がどのような数字を使っているのか注意してみると面白いかもしれない。