2011年10月28日金曜日

格付け機関② クルーグマン

前回マイケル・ルイスの格付け機関批判を見たが、これに並んで強烈な批判がWebにあったので訳してみた。
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以下はアメリカの大手格付け機関のS&Pが今年の8月5日に米国債の格付けをAAAからAA+に引き下げたときに、MITのクルーグマン教授がNew York Timesのコラムでこの話題を取り上げたもの(Paul Krugman, "Credibility, Chutzpha, and Debt",2008, August 7, 2011, New York Times column)
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このコラムでのクルーグマン教授の批判は2正面で、1つは格付け機関への批判。もう1つはアメリカの共和党の議員たちの振る舞いに対してのもの。以下では前半の格付け機関を扱った部分だけを訳した。
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前回の分類に対応させると4(格付けが間違い続きだ)だろうか。
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信頼性、厚顔無恥、そして負債
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アメリカ国債の格付けを引き下げるという格付け機関S&Pの判断をめぐっての大騒ぎを理解するためには、2つの互いに矛盾するかに見える(けれど実際には矛盾しない)見解をもっておく必要がある。最初の見解は、確かにアメリカは、かつてそうであったような安定して信頼できる国ではもはやない、ということだ。2番目は、S&P自身の信頼性はより低いということで、S&Pは我が国の将来に関する判断を求める人が頼る場所としては最も不適格なところだ、ということだ。
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S&Pの信頼性の欠如のほうから始めよう。S&Pによるアメリカ国債引き下げについて一言で述べるならば、「厚顔無恥(注:chutzpah)」ということになるだろう。伝統的にはこの言葉は、両親を殺した若い男が、自分が(注:いまはもう)孤児であるからといって慈悲を乞うという例によって説明されている。
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結局のところアメリカの巨額の財政赤字は、主として2008年の金融危機後に起こった経済の停滞の結果である。そしてS&Pは、同業の格付け会社とともに、結果として後に有毒廃棄物となったモーゲージ担保債にAAA格付けを付与することで、その金融危機を引き起こすのに大きな役割を果たした。
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S&Pの判断の誤りはそれだけに止まらなかった。悪評高いことに、S&Pはその崩壊が世界規模のパニックの引き金を引いたリーマン・ブラザーズに対して、リーマンが消滅したまさにその月にA格付を与えた。そしてS&PはこのA格付けの会社が破産したことに対し、どのように反応しただろう?間違ったことは何もしなかった、というレポートを発行することで対応したのだ。
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ちょっと待って欲しい。これでもS&Pはましになってるだ(注:Wait, it gets better)。アメリカ国債を格下げする前に、S&Pは自社のプレスリリースのドラフトをアメリカ財務省に送付した。財務省の職員は即座にS&Pの計算の中に2兆ドルの誤りがあることを発見した。そしてその誤りたるや国家予算の専門家ならば誰も犯さない類の誤りだった。財務省との協議のあとS&Pは自分が間違っていることを認めた。そして、誤りを指摘された経済分析のうちのいくつかを取り除いた後、それにもかかわらずアメリカ国債を格下げした。
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すぐ説明するように、その手の予算見積もりなど、いずれにしても重視されるべきものではない。けれど、このエピソードはS&Pの判断に対する信頼を喚起するものではまったくない。
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さらに広く言えば、格付け機関が我々に対し、国家の支払能力に関する彼らの判断を重視するべきという理由づけを提供したことなど一度もない。一般的にいってデフォルトをする国家が、そのデフォルト前に格下げされることはたしかだ。だがそのようなケースでは、格付け機関は単にマーケットを後追いしたにすぎない。そのような場合、マーケットはすでに問題をかかえた債務者を攻め立てていたのだ。
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加えて、投資家がまだ信頼を置いている今のアメリカのような国家を格付け機関が格下げしたまれな例において、格付け機関はコンスタントに間違え続けてきた。特にS&P2002年に格下げを行った日本のケースを考えてほしい。格下げから9年後においても日本は自由にそして安価にお金を借りることができている(注:低利で国債が発行できている、という意味)。実際のところ、先週金曜日の時点で10年もの日本国債の金利は1%にとどまっている。
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だから、先の金曜日のアメリカ国債の格下げを重くうけとめるべき理由はまったくない。この連中は、その判断をもっとも信頼するべきでない連中なのだ。


(以下略)