この問題に関しては通常であれば自由市場の重視を掲げ、政府による経済への介入に対して反対するThe Economistのような雑誌も解決/軽減のため政府による政策の必要性を主張しているため、問題の重要性についての争いはないように思われるが、対策として何をやるか、ということに関しては意見に幅があるためここでの案はあくまでも対策の一つ。
【労働政策に関するストラテジーの設計】
ポイント10: ILO(2010)は若年層の失業問題対策に関し、個々の政策の前に政策メニュー全体を包括した戦略案(ストラテジー)を設計することを提言している。
迂遠に見えるかもしれないが、ILO(2010)は世界銀行のWendy Cunningham等のレポートを例にあげて、個々の政策の前に労働政策全体のストラテジーをつくることを提言している。もとのCunningham等のレポートでは若年層への労働政策の設計には以下のステップを踏むことを提言している。
d
<労働政策設計のステップ>
Step1: <対象と制約の設定>若者層は均質ではないので、若者層の内部で対象とする集団とその集団内の人々が仕事をみつけるうえでの制約を特定する
Step2: <労働政策のデザイン>対象となる集団が直面する課題に対応する介入方法を選択する(なお、Cunningham等は過去に効果のあったといわれる介入政策案(Active Labor Market Policies and Programmes[ALMPs])のメニューを下のようなテーブルで表示している)
Step3: <国や集団等の固有要因にあわせたデザインの調整>ストラテジーを国や対象となる集団に固有の要因に従い調整する
Step4: <政策の評価>政策の実施後、どの政策が成果をあげたかどれが効果をあげなかったか事後評価する
出所:Wendy Cunningham, Maria Laura Sanchez-Puerta, and Alice Wuermli, November 2010, "Active Labor Market Programs for Youth A Framework to Guide Youth Employment Interventions", World Bank Employment Policy Primer No16のTable1より
このような形で事前に政策全体をデザインすることは、事前の効果以上に事後にプログラムを評価するさいに有益であると思われる。この種の政策が絶対に失敗しない、ということはありえないので、たとえ政策に意図した効果がなかったとしても、どのようなデザインで設計され、どこにターゲットをあてての政策が効かなかったか、という情報は将来的に類似した政策を設計するさい、貴重な情報となるはずである。
d
【若年層の労働市場参入への障壁】
ポイント11: ILO(2010)は若年層の労働市場への参入にあたっての障壁として、スキルのミスマッチ(供給側の問題)、総需要不足/雇用者の年齢差別(需要側の問題)、雇用者・求職者間の情報ギャップ、そして起業家が直面する人的資源・資金の不足(以上2つは需要と供給にまたがる問題)、という4つの問題を挙げている。
出所: ILO(2010)
ILOの挙げる4つについて以下で少し
- スキルのミスマッチ:雇用者が求めるスキルと求職者が有するスキルが一致しない問題。テクニカルなスキルは教育訓練などで解消されるかもしれないが、テクニカルでないより基礎的なスキル(いわゆる読み書き等)において需給ギャップがおきている場合、解決が長期的となるため問題は深刻になる。
- 需要不足と年齢による若者差別:経済が不況になると総需要が減るため雇用機会が減少する(筆者注:また経済学者のなかには、昨今の経済成長がかつての経済成長→雇用増という形ではなく、雇用の増加につながらない経済成長という様相を強めてきている、という主張もある)。また特に不況期には雇用者のほうで経験のない若者よりも、実務経験のあるより年配の労働者を選好する傾向があるため、若者層がそもそも労働市場に参加する前に扉が閉ざされてしまう問題。なお解雇についても不況になると若者が先に雇用を打ち切られる傾向があるため、不況期にはこの問題は一層悪化する。
- 情報ギャップ:(以下若干専門的)ILOは情報ギャップの例としてジョブサーチとスクリーニングの問題を挙げている。潜在的雇用者と求職者の間で、求職者の求職情報に関する情報のギャップ(雇用者が求職者をみつけられない)があり、結果として求職者が自身にとって最適でない職業につくことによる損失が発生するか、あるいはそもそも求職者が雇用者を発見できないことによる損失(ジョブサーチの失敗)。この情報ギャップは通常労働市場に社会的資本(友人や年長者の知り合い等)の少ない不利な立場(貧困層・マイノリティ等)で入っていくものほど大きくなりがちなため、結果として労働市場において不利な者の立場が情報ギャップによってより不利になることがある。また、スクリーニングについて例を挙げえるとそもそも高等教育の意味が雇用者側に理解されていない場合、教育は職を得るための手段とならない等。
- 起業家が直面する問題:起業を自発的に選択するのではなく、(他に仕事がみつからないなどの理由で)そうせざるおえないため必要に迫られて起業する場合、若い起業家は特に多くの困難に直面しがちである。また総じて若い起業家は資金・ソーシャルキャピタルなどの面で不利なことが多い。