この種の研究は利用できるデータセットが著しく限られるので推定値についての疑義は多々あるのだろうが、実際にそのような経済が存在しているのには疑いがない(著者達曰く"Knowing the unknow")。今後重要な分野だろう。
研究では世界162か国について1999年から2007年における地下経済のGDP対比での規模を推定している。それによると:
- 1999年において世界162か国の地下経済を合計するとGDPの34.1%だったが、2007年においてこの数値は31%に微減した
- 地下経済の大きさは地域によって大きく異なる、加重平均した場合の地下経済の大きさはサブサハラ地域で38.4%、OECDで13.5%である
- 地下経済が発展するには複数の要因がある(下を参照)
- 日本の地下経済は2007年でGDP比10.3%、1999-2007年で11%と推計されており、この比率はOECD25か国のなかで5番目に小さい(グラフ1参照)
- ただし、比率が小さいといっても日本はもともとGDPの絶対額が大きいため、地下経済の規模そのものはそれなりに大きく、Tax for Justiceという団体がこの研究で推定された地下経済の比率に各国の地下経済の経済規模及び各国の税率を組み合わせて「地下経済により取り損ねた税金の額」を推定した表をつくっている(グラフ2参照)
- これによると日本は「地下経済での取引が表経済で正確に課税されていたならば得られたであろう税金の額」は世界で7番目に大きいようだ(つまりそれだけ税金を取り損ねている、ということ)
- 10か国をあげると上から米国、ブラジル、イタリア、ロシア、ドイツ、フランス、日本、中国、イギリス、スペインの順
グラフ1: OECD諸国25か国の地下経済の対GDP比率
出所: Friedrich, Andreas, and Claudio (2010)
グラフ2:「地下経済により取り損った税金額」の大きい10か国(Big losers)
出所: Tax Justice Network
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もとのワーキングペーパーでは地下経済の発達に影響を与える要因として以下の点が挙げられている:- 税金・社会保障:労働で得られる賃金と税・社会保障後の手取りが大きいほど地下経済で働く要因が大きくなるため、税金と社会保障は地下経済の大きさと密接にかかわっている
- 政府の諸規制:労働市場の規制、輸入障壁等の諸規制の煩雑さ・コストが増すほど、地下経済が成長する原因となる
- 政府サービスの質:地下経済が発達するほど政府の収入が減り、政府が提供するサービスの質が悪くなる。これを補うため政府が増税を行うと、より地下経済が成長する(悪い均衡)
- 表(合法)経済(Official Economy)の状況:表経済の景気が良くなれば、職を得られる機会等が合法的な経済でみつかりやすくなるため、人々が地下経済に参加しようという誘因が小さくなる。逆の場合は地下経済に参加する誘因が大きくなる
最後にこの研究では「地下経済」を以下のように定義している。
"the shadow economy includes all market-based legal production of goods and services that are deliberately concealed from public authorities for any of the following reasons:
(1) to avoid payment of income, value added or other taxes,
(2) to avoid payment of social security contributions,
(3) to avoid having to meet certain legal labor market standards, such as minimum wages,
maximum working hours, safety standards, etc., and
(4) to avoid complying with certain administrative procedures, such as completing
statistical questionnaires or other administrative forms"
地下経済は、以下のいずれかの理由のため、意図的に政府の諸機関に対し秘匿されつつ、市場によって合法につくりだされたすべての財やサービスを含む。
1. 所得税・消費税・その他の税金の支払いを逃れるため
2. 社会保障の拠出金の支払いを逃れるため
3. 最低賃金、最大労働時間、安全基準等のような労働市場における法律に従うのを逃れるため
4. 法律的なアンケートやその他の行政的な手順に従うことを逃れるため