2012年1月31日火曜日

核を持った国の振る舞いは変化するのか?

イスラエル人ジャーナリストのRonen Bergmanが1月25日付のNew York Timesに、イスラエルのイラン攻撃について論じた論説を掲載し、この記事は大きな評判を呼んでいる。Bergmanは最終段落で以下のように述べている。
After speaking with many senior Israeli leaders and chiefs of the military and the intelligence, I have come to believe that Israel will indeed strike Iran in 2012. 
多くのイスラエルの指導者、軍部及びインテリジェンスの長官と話した後、私は2012年にイスラエルがイランを確かに攻撃すると確信するようになった。
Source: Gardian
実際にイランの核開発を巡りイスラエル-イラン間に緊張が高まっているのは確かなようで、日本の新聞も記事を掲載している(一例)。

今回翻訳した以下の記事はアメリカのポリティカルアナリストたちが運営するブログThe Monkey Cageに載ったポスト(How do states act after they get nuclear weapons?)。

著者は「そもそも核兵器を持つと国は攻撃的になるのか?」という問題提起をしている。途中の分析は少し弱いようで(有意水準がp=10%だし、サンプルも少なさそうだし)、分析自体の説得力はいまいちだが、問題提起自体は研究する価値があるように思う。なおJames Fearonはスタンフォード大学の政治学教授である。

*****
核兵器を得た後、国家はどのように振る舞うか?/How do states act after they get nuclear weapons?
by James Fearon, January 29 2012
d
イランに対するアメリカと/またはイスラエルによる先制攻撃を扱うこれらすべての記事を読んで、私は核兵器を得た後の国家が紛争時にとる行動の歴史的な履歴について知りたくなった。国家が深刻な国際紛争に関与する率は上がるのだろうか?それとも下がるのだろうか?または核を持ったとしても変わらないのだろうか?
Matthew Kroenigのようなイランへの先制戦争の支持者は核を得た場合、イランは今よりはるかに攻撃的になると予想している。反対にKen Waltzのような核拡散に対する楽観者は我々は度々、核武装した敵によってひどいことが引き起こされると予想してきたけれども、我々はどちらかといえば繰り返し、その反対が正しかったことを見てきた、と主張している。たとえばソビエトとアメリカは特段の証拠なしに、(中国の)毛が核兵器を持った場合、彼はより攻撃的で、危険で、ファナティックになると考え、それを防ぐため(毛への)先制攻撃について熟考した。しかし核兵器取得後、間違いなくより現状維持に重点を置いた中国外交(a more status quo oriented Chinese foreign policy)が続いた。

特に最近の5年間において、国際関係論の専門家の多くが利用できる数量データを使い、核兵器と国際紛争の間に見られるパターンについて探り始めた(Erik GartzkeDong-Joon JoRobert Rauchhaus、そしてMichael Horowitzの研究を見てほしい)。種々の興味深い発見が見られたが、それらの発見を見回しても私が見たかったことは見つけられなかった。私が見たかったのは、単純な国レベルにおける核の取得前と後での紛争への関与率に関する調査だった。
よって、私のほうでZeev Maozバージョンの国家間における軍事関連紛争のデータを使って、それらをまとめてみた。以下のグラフは、1945年から2001年までに核兵器を取得した9つの国のそれぞれについて、核を持っていなかった期間における年間での軍事関連紛争の発生率と持った後のそれとを示している。アメリカが核をもったのが1945年なので、アメリカについては核を持つ前の軍事関連の紛争データは存在しないこと。ロシア/USSRの核取得以前の軍事関連の紛争発生率はわずか1945-1948年の間のものであること。南アフリカは1982-90年のものであること、紛争関連のデータは2001までしかないこと、に注意してほしい。
中国、フランス、インド、イスラエル、パキスタン、イギリスはすべて、核取得後の期間において軍事関連紛争の発生率が低下している。多くの国で大きな低下が得られる。USSR/ロシアと南アフリカについては核取得後の紛争発生率が核取得前を上回っている。ただし、USSRについては冷戦がスタートしようとしている時期の4年間しか核をもたない期間のサンプルがないことに注意しなければならない。

ただ、核兵器を得ることで、自国がより攻撃的になるのではなく、相手国が自国に対してより紛争を始めやすくなるという可能性はあるかもしれない。したがって我々の注意を問題となる国によって始められた紛争に限るべきかもしれない。次のグラフはこれを示している(Maozのデータの”primary initiator”という分類を使用している)。
前のものよりも少し目立たないかもしれないが、同じ傾向がみられる。依然としてUSSRと南アフリカ以外の国々は核を得た後では紛争を始める率が低下しているのが見られる。
もし統計モデルを使い、GDP(軍事能力に関する代理変数)や時間における経年変化といった他の要素をコントロールすると何が分かるだろう?私はパネルデータによるアプローチを使ってこれらのうちいくつかをおこなった。 平均的にいって国家が核兵器を得ると、年間の紛争関与率が1.5回減ることがp=0.1(訳者注:10%)水準で統計的に有意にいえることが分かった。様々な理由で、私自身はこの分析にはあまり重きをおかないが、この分析は軍事力と時間のトレンドを除去しても、上でみられるパターンは消え去らず、実際のところより強まるかもしれないことを示している。

明らかなことだが、核のテストの後、核保有国クラブの他のメンバーが外交面においてより攻撃的にはならなかったという事実はイランもより攻撃的になることはない、ということを意味しているのではない。しかしながら、Kroenigなどの先制攻撃の支持者やTimes(New York Times)の記事でレポートされるようにEhud Barakのようにそれについて真剣に考える政治家が示す先制攻撃の論拠があまりに弱いことは驚くべきことだと思う。Barakは、イスラエルがロケットその他の攻撃に反応してヒズボラやハマスを攻撃した場合に、イランが核による脅しを仕掛ける可能性があることを懸念している、と述べている。これは現実的な危険ではない。

もし、イランが近隣諸国との間で長年にわたる根の深い領土問題を抱えているのならば、私はイランが侵略をする誘因が高まることを恐れるかもしれない(もしサダムが1990年に核兵器を持っていたら、彼をクウェートから立ち退かせることははるかに難しいか、もしくは不可能だっただろう)。しかし、私はイランがその種の問題を抱えているとは思わないし、いずれにせよそれはイスラエルの主要な懸念ではないだろう。
スンニ派が優位を占めるイランの近隣諸国は、核武装をしたイランが、自国内のシーア派の不満を煽り立てるのにより有利な位置にたつことを懸念している。しかしイランの核武装に反応してサウジやほかの国が武器を求めることへの懸念はイランのリーダー(それが誰であれ)にのしかかっているように思える。実際のところこれは核武装化を選択せずにとどまるという選択に彼らを向けさせるかもしれない。加えてもし彼らが核武装をするにせよ、核による均衡が伴うリスクはこの地域において、イランに対してより現状維持型の外交を選択させるように働くだろう。これが核武装後にいくつかの国においておこったことだ。

はっきりさせておくが、私はイランのレジームが核兵器を持たないことを強く望む。主たる理由として、この地域におけるより一層の核の拡散、核武装に付随して起こる予防のための先制攻撃のリスク、兵器のコントロールの喪失などが挙げられる。しかしながら、イランへの攻撃は(現イランのレジームに)核の取得をさらに追求させることになること、イスラエルへの将来の攻撃への認可状になること、現イランのレジームと(当該レジームのとる)核武装による防衛政策への民衆のサポートを急激に増加させることを保証することになる可能性が高い。(NYTの記事によるとネタニヤフは実際のところ攻撃は「イランの民衆に歓迎される」と信じていると報道されている。もしこれが彼の本心からの見方であり、純粋に戦略的な発言でないとするならば、この件に関する歴史的な記録は幻滅させるものだろう。)秤のもう一方はイランが核兵器を持ったさいに行うひどいことについての、より曖昧で、根拠に乏しく、まったく洗練されない議論と主張がある。我々は以前にもスターリンのUSSRや毛の中国や金正日の北朝鮮をめぐりこれと同じ議論を聞いてきた。どちらかが死ぬまで争いあうインドとパキスタンについても。これらのケースはすべてとても怖いものだったし、イラン核武装という見込みがイスラエルにとって信じがたいほど恐ろしいことは理解できる。しかしながら、今までのところこれら過去のケースのどれもそれらの恐怖を超えた極度の恐慌を正当化させるものではないように見える。