2012年2月29日水曜日

書評 Treasure Islands-タックスヘイブンの闇

最近立て続けにケイマン諸島などのタックスヘイブンを利用した企業詐欺や犯罪がおきている。オリンパスでもケイマンのタックスヘイブンが使われたようだし、AIJでもケイマンが使われたようだ。日本人がケイマン、バミューダと聞くと、なにやらエギゾチックな風情を思い浮かべがちだが、実はこのようなイメージの下でかなり大規模な闇取引が行われているようである。

Treasure Islandsは2011年にイギリスとアメリカで出版され、最近邦訳もでた。本書は第二次世界大戦後のタックスヘイブンの変遷を描き、特に1980年代以降の金融規制緩和以降、タックスヘイブンがどのようにして先進国の金融産業や大企業、世界各国の犯罪組織、発展途上国の指導者層によって租税逃れや資金洗浄の道具として利用されるようになったかを描いている。著者ニコラス・シャクソンはイギリス人ジャーナリスト。本書はジェフリー・サックスやニコラス・スターンなどから賞賛されている。
本書によるとタックスヘイブンは以下のような行為のために利用される。
  1. 多国籍企業の税金逃れ:移転価格税制や税率の低い地域に本社を置くなどして、大企業や金融セクターは税金の支払いを最小化している(マイクロソフト、シスコ、グーグル(ブルームバーグはグーグルが払う税金を疑問視した記事を載せている)、GE、大銀行、投資銀行など)。なおU2のボノ(アフリカへの援助を熱心に提唱)も税率の低いオランダにU2の本拠を移しているらしい。
  2. 海外援助の悪用:援助として先進国から発展途上国に送られたお金が当該国の腐敗した指導者層のポケットに入った後、タックスヘイブンを介して先進国へと還流している。したがって援助は本当に必要とされているところに行き着いていない。先進諸国がつくりだしたタックスヘイブンが発展途上国の民衆を搾取することになっている
  3. マフィア・犯罪組織の資金洗浄:犯罪組織はCity of London、バミューダ、デラウェア、マルタ、パナマ、ルクセンブルグ、ケイマン、香港、シンガポール、マカオなどを使ってマネーロンダリングを行っている。このような資金洗浄は複数のタックスヘイブンを介し行われるため、追跡・捕捉が困難である。
  4. 各国が租税の引き下げ:タックスヘイブンの存在は、金融業界が各国政府に租税の引き下げを迫るためタックスヘイブンは"race to the bottom(最低点への租税引き下げレース)"の口実として利用されている(「もしわが国が税率を下げなければ資金がすべてタックスヘイブンに流出する!」)。
なお、1.の租税引き下げ圧力については高い租税を課す国が悪い、という議論もあるが、著者はそもそも大企業と富裕層はタックスヘイブンを介しほとんど租税を払っていないと言い、これは社会的な不公平だと指摘する。
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タックスヘイブンを利用した犯罪を追跡する上で問題になるのはそもそもタックスヘイブンにある会社の社長以下役員は実際に権限を持たない弁護士や会計士が務めていることがほとんどで、登記簿からでは資金の拠出者(実際に会社をコントロールするもの)の身元がわからない点だ。多くの国では資金拠出者の身元は法律で保護され、それを明らかにしようとすると法律で罰せられる。
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著者によると、このような匿名性は直近の金融危機においても大きな役割を果たした。そもそもサブプライム商品などの複雑な仕組み債を保有していたのはケイマン等に登記されたSPCであることが多く、このような会社は、真の責任者(会社のコントロールをしている主体)が誰であるかわからないし、調べる術がない。したがって破綻などのさい情報が表にでないため、債務整理も困難を極める。

タックスヘイブンは世界に点在するため一国を罰しても資金が他国へ流出するだけである(例:ケイマンからマカオへ)。また金融業界は改革には猛烈に反対している。著者は世界的な、特にこの問題について大きな責任があるOECDによる協調が必要だ、と説いている(著者はタックスヘイブン内部からの改革はタックスヘイブンの上位層によって潰されがちであることを指摘している)。

以下は著者が文中で引くケインズの言葉:
When the capital development of a country becomes a by-product of the activities of a casino, --, the job is likely to be ill-done.
一国の資本形成がカジノ活動の副産物となる場合、それは上手くはなされないだろう。
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エギゾチック?
バミューダ島