2012年1月18日水曜日

書評- D・カーネマン, Thinking, fast and slow -⑤

今まで3回に渡り本書の中心となる3つのテーマに即して概要と感想を載せてきたが、今回は最後として全体の感想を。
*****
New York Timesが2011年のBest10(ノンフィクションに限るとBest5)に挙げており、その他の書評でもほぼ一貫して高い評点がつけられているがその評価に違わず、本書は示唆的な内容に富んだ優れた本である(「国富論」や「夢判断」と同じリーグ(@タレブ)かは筆者には判断がつかない)。

また記述の仕方も容易なため誰にでも読みやすい形でアクセスが可能でもある。どのアイデア、理論も読んだ後で振り返ると「言われてみれば当たり前」に思えるのだが、往々にして優れた理論というのはそういうものであり、それをきちんと観察し、実験を経て、言葉や概念として理論化するのは時間や労力や多少の運が必要なのだろう。

内容以外に本書の中から印象に残った2つの場面について。

【トベルスキーとの研究】
長年の共同研究者であり、1996年に死去したエイモス・トベルスキーへの敬愛と感謝の念が本書を通じて貫かれている。以下15年近く続いたトベルスキーとの幸福な(ように見える)共同研究について。
エイモスは理論への志向と進むべき方向について誤らない感覚をもち、私よりも論理的だった。私はより直観的であり、認知に関する心理学に依拠しており、我々はそこから多くのアイデアを拝借した。我々はお互いを容易に理解するのに十分なほどは似通っており、同時にお互いを驚かせるのに十分なほどは違っていた。我々はそのなかで多くの時間を一緒に過ごすことになるルーティーンをつくりあげた。しばしば長い散歩という形で。それからの14年間に渡り、我々の協力関係は我々の人生の焦点であり、この期間に行った仕事はお互いが行ってきた仕事のなかで最良のものとなった。(6Pより)
【学者として】
ところどころに現れるカーネマンの学者としての姿勢もフェアー(反論に対して寛容)で昨今分断されがちな印象のある社会科学系のアカデミア事情を背景とすると新鮮に写る。

以下一例。カーネマンは自分たちの学説に対し、最も強い反論を唱えるGaly Kleinに対して共同研究を申し入れ、Kleinと長年にわたる共同研究に乗り出し、最後に論文を発表した。
それから7、8年にわたり、我々は多くの議論をし、不一致の多くを乗り越え、何度か(共同研究を)取り止めにしかけ、多くのドラフトを書き上げ、友達になり、最後にタイトルが論文の内容を物語る"Conditions for Intuitive Expertise: A Failure to Disagree"という共著論文を発表した。実際のところ、我々はそれに関してお互いの意見が一致しない本当の問題に出くわすことはなかったが、お互いの意見が本当に一致することはなかった。(235Pより)
最後に一つだけ気になった点を。本書にいくつか出てくる行動経済学に基づく政策提言の部分は若干弱い、というか説得的に論じるには紙幅が足りていないような気がした(これについてはWilliam EasterlyもFTに載せた書評で指摘している)。
*****
僕のやることなすこといつも間違えだらけなんだけど、どうすればいい?