2011年11月25日金曜日

世界における若者の失業問題について③

前回失業率について地域別及び上の世代との比較を見たが、今回は男女差についての数字をみる。

【男女別の若年世代失業率】
ポイント6:東アジア・先進諸国&EUを除いた地域別でみた場合、若年世代の女性の失業率は男性のそれよりも高い。

出所:ILO(2010)から筆者作成
なお、当たり前すぎてあらためて指摘する必要もないかもしれないが念のため。失業率に大きな差がないからといって労働市場における男女の待遇に差がないということではない。このトピックは後で扱う。

失業率の男女差が中東と北アフリカで特に大きいことについて、ILO(2010)はレポート中のコラム「2重の重荷:中東と北アフリカにおいて、若い女性であるということ/A double burden: Being female and young in the Middle East and North Africa」で以下のようにコメントしている。
The gender gaps in most labour market indicators, including youth unemployment rates and labour force participation rates, are consistently higher in the Middle East and North Africa than in all other regions, reflecting the strong cultural, social and economic gender divisions. ......Some employers openly give preference to male jobseekers. Others might prefer female workers but the jobs offered are low-skilled and low-paid and therefore not attractive to the few women holding out for employment.
(訳)中東と北アフリカにおいて、若年失業率、労働者就労率などを含む労働市場に関する指標が示す男女間の格差は、ほかのすべての地域のそれよりも継続して大きい。これは強い文化的、社会的、経済的なジェンダー間の格差があることを示している。(略)雇用者のなかには、隠し立てせずに男性の求職者のほうを好むものがいる。女性の労働者を好むものもいるかもしれないが、その場合に提示される仕事は低スキル・低賃金のものであり、働くことを求めている数少ない女性にとって魅力的なものではない。
The educated young women mainly attempt to find work in the shrinking public sector, hence the extremely high female youth unemployment rates in both regions (30.8 and 30.3 per cent in the Middle East and North Africa, respectively, in 2008). Dhillon et al. (2007) also cite the lack of economic diversification outside the male-dominated growing oil industry as a cause of high female unemployment.3 Women’s entrepreneurship in the regions is also reportedly low compared to other regions. Although, there are not significant differences between the types of enterprises owned by women and men, women are confronted with more hostile business environments (for example, the time needed to resolve a conflict via the legal system was found to be longer for women than for men). 
(訳)教育を受けた若い女性は、主として縮小しつつあるパブリックセクターで仕事を見つけようとする。結果として両地域における極端に高い女性の失業率につながっている(2008年において30.8%(中東)と30.3%(北アフリカ))。Dhillon et al.(2007)はまた、成長中ではあるが男性優位の職場である石油産業以外の分野での仕事の多様性のなさを、高い女性失業率の原因として挙げている。これらの地域の女性の起業家精神についても、他の地域と比較した場合に際立って低い。(注:起業家が)所有する事業の種類について男女間で目立った差はないが、女性は男性と比較してより難しいビジネス環境に直面する(例えば、リーガルシステムを介した紛争解決に必要となる時間は、女性のほうが男性よりも長いことが分かっている)。
In short, the employment situation facing young women in the Middle East and North Africa is dire and can only be made worse as the economic crisis closes even the few doors open to those who seek to gain some income and satisfaction through employment. ......Unfortunately, the priority given to enforcing policies to combat discrimination and promote female employment and public awareness campaigns regarding the benefits of increasing the economic activity of women fall off the radar in an environment of crisis response.
(訳)まとめると、中東と北アフリカにおいて若い女性が直面する雇用環境は悲惨なもの(dire)であり、昨今の経済危機が、働くことによりいくばくかの収入と達成感を得ようとしている女性に開かれている数少ないドアをさえ閉じようとしているため、状況は悪化する一方である。(略)不運なことに、男女間の差別に対して立ち向かい、女性の雇用を上昇させるための法律の施行と、女性による経済活動が活発化することによって得られる利益について一般の人々の意識を啓蒙するキャンペーンに対して与えらえるプライオリティは、経済危機への対応下ではなかなか(政策の)レーダーに入ってこない。

【若年労働市場における女性の待遇】
ポイント7: 全体の傾向として若年層においても女性の雇用機会や給料等の条件は男性のそれよりも悪い。

先進諸国を含むほとんどすべての国の労働市場(若年労働市場に限られない)において女性の地位(待遇・給与・雇用機会等)は、依然男性よりも低い。ILO(2010)は先進諸国の若年層の女性の地位について以下のような指摘をしている*。
*ILO(2010)は、現状この問題を考察するためのデータとしてはOECDのデータが中心となるため、発展途上国についてはデータにもとづいた意見が言えない、としながらも、多かれ少なかれこのような先進諸国の傾向は発展途上国にもあてはまると思われる、とも付け加えている。前回見たように若年・壮年失業率の比較において先進国よりも中東のほうが格差が大きかったことなどを考えても、発展途上国のほうがこの問題の程度がひどいことは確実だと思われる。
In general, young women have even more difficulties finding work than young men. Even though there are countries and regions where unemployment is lower for young women than for young men, this often only means that women do not even try to find a job but leave the labour market altogether due to discouragement. When they do find a job it is often lower paid and in the informal economy, in unprotected low-skilled jobs. 
(訳)一般的に、若い女性のほうが男性よりも、仕事を見つけるのにより一層苦労している。若い女性の失業率が若い男性のそれよりも低い国と地域もあるが、これはしばしば、仕事探しを思いとどまることで、女性が仕事を探そうともせず、労働市場から完全に脱退していることを意味しているだけである。女性が仕事をみつけたときでも、しばしばその仕事は(男性のそれよりも)低賃金であり、合法な市場内での仕事ではないものであったりする。結果としてこのような仕事は法律に守られず、高いスキルを必要としない仕事となる。
以下ではILOレポートの補足としてOECD(2008)*がOECD諸国における男女間の格差(ここでは若年層に限られない)について述べている文章を参照する。
* OECD. OECD Employment Outlook - 2008 Edition Summary in English. OECD, Paris, 2008, P3-4
In addition, in many countries, labour market discrimination  – i.e. the unequal treatment of equally productive individuals only because they belong to a specific group  – is still a crucial factor inflating disparities in employment and the quality of job opportunities. For example, while female employment rates have expanded considerably and the gender employment and wage gaps have narrowed virtually everywhere, women still have 20% less chance to have a job than men, on average, and they are paid 17% less than their male counterparts.  
(訳) 加えて、多くの国では、労働市場における差別(つまり同等に生産的な個人を彼等彼女等がある特定のグループに属しているという理由のみで、不公平に扱うという差別)は依然として、雇用と仕事の質における格差を増大させる重要な要因である。例えば、女性の労働者数は大幅に増加し、性別による雇用と給与の格差はどの国でも縮小してきたのにもかかわらず、女性が職を得るチャンスは、依然として平均すると男性よりも20%少なく、女性の給与は同様の仕事をしている男性と比較すると17%少ない。
男女間の賃金格差について若年層に焦点をあてて扱ったグラフを見つけることはできなかったが、代わりとして以下ではOECD(2008)のグラフを表示する。このグラフは2008年時点において、正社員の仕事に就いていた男性の平均賃金と同女性の平均賃金との間にあった賃金の格差を表示している。先進諸国内(OECD諸国)にあっても平均で18%の賃金格差があることがわかる(つまり女性の平均賃金は同様の仕事をしている男性よりも18%低い)。
出所: Wikipedia, Gender Pay Gapより


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この一連のポストで日本における女性(ここでは若年世代もその上の世代も含む)の雇用環境に焦点を合わせる予定はなかったが、以下少しだけ日本について。

上のグラフを見ても分かるように日本は韓国と並びOECDのなかで男女間の賃金格差が最も大きい部類の国であり、正社員として働く日本の女性の賃金は、男性のそれと比較すると、平均して約30%も低い。

下は今週のThe Economistの記事に載っているグラフで、左は賃金格差の時系列である。これをみると日本の賃金格差は縮まってきているがまだ大きい(約30%)。右は各国の男女別の労働参加率(労働人口[=就業者+失業中だが仕事を探している者]÷総人口[=労働人口+非労働人口])だが、国際比較で見ても日本の女性の労働参加率が低いことを示している(グラフでは下にイタリアとインドしかいない)。
出所: The Economist

大企業や理解のある中小企業では格差をなくそうという動きは増えつつあり、例外は多々あるのだろうが、平均してみると日本では女性であるということは労働市場でハンディキャップを負うことを意味する。これは今後の日本の企業の競争力の面でも無視できる問題ではない。優秀な女性が外資系に就職したがる理由のうちの一つとして、外資系では待遇・賃金を含めた男女格差がないように「見える」、という理由があるように思える(外資系企業の内実が本当にそのようなものかどうかはここではあまり関係がない)。

The Economistは別の記事でも日本の労働市場における女性の労働参加率及び待遇の低さについて警鐘をならしている。以下同記事からの引用。
Japanese firms are careful to recycle paper but careless about wasting female talent.
日本企業は紙をリサイクルすることには気を遣うが、女性の才能の無駄遣いは気にかけない。